石黒農場物語
石黒農場は、岩手県花巻市の温泉地の奥にあります。
四季折々の自然の営みの中で、40年以上にわたり、フランス料理に欠かせない「パンタード(ホロホロ鳥)」を育てております。
しかし、飼育に至るまでの道のりは、大変でした。
今でこそ、日本でもパンタードという名前で、料理界で通用するようになりましたが、石黒農場が、ほろほろ鳥を始めるきっかけは、日本人の口に合う鳥を模索したことから始まります。
それでは、石黒農場物語、お楽しみください。
ほろほろ鳥飼育のきっかけ・・・
今からおよそ40年前・・昭和30年代に遡ります。
石黒農場は、東京で飲食店を営む親、兄弟のお店に、食材を提供するために鳥を育てておりました。
縁あって盛岡に支店を出すということになり、親戚が集まり「それなら岩手の名物になるものを考えだそう」ということになり、最初にスポットが当たったのが、岩手県の鳥である“キジ”でした。
“キジ料理”を名物メニューにしようということになり、石黒農場でキジの飼育を始めることになったのです。
しかし、年間を通して、キジを食材として提供するとなると繁殖の面でとても難しく、なかなか生産に繋がらない。
そんな時に、人づてに、キジ科の鳥で「ほろほろ鳥を食べたら旨かった!」という話を聞き、観賞用で飼われていた鳥を何羽か分けてもらい飼育を試みることにしました。
そのころ、石黒農場では、キジの他、高麗キジ、七面鳥なども飼育しておりましたので、ほろほろ鳥も含めて、東京の料理店で試食会をしたところ、皆が口をそろえて、「旨い!」と言ったのが、まさに“ほろほろ鳥”でした。
ほろほろ鳥の味に魅力を感じ、石黒農場で本格的にほろほろ鳥を飼育することを決心した社長の夢は、東京からの帰りの電車の中で、どんどん膨らむのでした。
ところが、熱帯地方のアフリカで生息しているほろほろ鳥を、岩手の雪の中で育てるのは、容易なことではありませんでした。
困難を極めたほろほろ鳥の飼育
日本の気候になじめないほろほろ鳥を、どうやって雪国の岩手で育てるのか。
当時、日本ではほろほろ鳥を飼育している例はなく、鶏舎で育ててみるがなかなか発育が遅く、年中卵を産むはずが、実際に卵を産むのは5~9月まで。
フランスまで行って、いろいろと現地調査や指導を仰ぐが、寒さに弱いほろほろ鳥にとって、この環境の違いは大きい。
さらに、ものすごく臆病で神経質なほろほろ鳥は、金網越しのキツネやテンや、ちょっとした物音で大騒ぎをする。
群れをなす性質から、驚くと一か所に集まって圧死してしまうものもいる。
自分まで神経質になって、ますます悪循環となる毎日・・・
ほんとうに、こんな山の中で、こんな雪国で、ほろほろ鳥を育てられるのだろうか・・・
迷いと葛藤をくりかえす日々の中、試行錯誤は続けられた。
遂にほろほろ鳥の飼育に成功!
寒さを、気温の変化をなんとかしなければ。
ほろほろ鳥の生まれた地、アフリカのように、いつも熱帯の状態にするには、どうしたらいいのだろう。
石黒農場の敷地内には、温泉が湧いていた。
自宅のまさに源泉かけ流しの温泉に浸かりながら、ふと思いついたのである。
この温泉のお湯を使って、床暖にした鶏舎を作ってはどうだろう!
そうは思ったものの、それも簡単なことではなかった。
試行錯誤を重ね、温泉を鶏舎に敷き、床暖房にすることにより、常時20℃前後が保たれるまでにたどり着いたのは、昭和51年のことだった。
同時に、外敵を守るために、また敏感にストレスを感じるほろほろ鳥を守るために、金網張りの鶏舎を、屋内で放し飼いをする「平飼い」にし、やっと、ほろほろ鳥が安心して生育できる環境が整ったのである。
優しさが石黒農場産の味になる
環境が整い、鶏舎の中を自由に歩き回るほろほろ鳥。
鶏舎に入ると、鳥たちの安心感が伝わってくる。
そんな鳥たちの平和な空間を壊さないように、驚かさないように、できるだけ静かに、作業中の会話も控えめに。作業服も刺激の少ない色にしよう。
いつしか、そんな愛情が鳥たちに伝わっているように感じる。
生き物は、世話をする人間の心を読む。
心を優しくして、作業をしよう。
そんな気持ちで、ほろほろ鳥を手掛けて40年。
今では、成長の良い、肉質の柔らかい、ジューシーなほろほろ鳥を、安定供給できることに感謝して、今日もほろほろ鳥に愛情をこめて一日が始まるのである。